バリューを信じる“個”のチームワークで勝つ。プラットフォーム化に向けたSmartHRの新規プロダクト開発

株式会社SmartHRは「社会の非合理を、ハックする」を掲げ、入退社手続きや従業員管理をクラウドで行える人事労務管理ソフト「SmartHR」を展開してきました。

26,000社を超える導入企業において、人事労務担当者の業務負荷、生産性向上に貢献してきた同社。昨年には、より多様な課題に対応すべく、アプリケーションストア「SmartHR Plus」によるプラットフォーム化を発表。すでに「雇用契約書機能」や「ペーパーレス年末調整」など、人事労務の負担を減らすための「Plusアプリ(拡張機能)」を公開しています。

新規プロダクトによって、“ハック”する領域を次々と拡大している同社では、どのようなチーム体制で企画開発を進めているのでしょうか。CTOの芹澤 雅人さん、「Plusアプリ」の企画開発に携わるプロダクトマネージャー(PM)の村中 裕貴さん、エンジニアの吉成 敦さんにお話を伺いました。

非合理のハックを加速させるプラットフォーム構想

—まずはSmartHRのミッションについて教えてください。

芹澤さん:
「社会の非合理をハックする」という言葉通り、既存の仕組みにおける非合理を解消していくのが私たちの役割です。とくに人事労務の領域で課題解決を行なってきました。

労務や人事担当者は、入退職者の管理や年末調整、産休育休の管理など、オペレーティブな仕事を多く抱えています。その上、膨大な紙書類を作成したり、役所に届けたりする必要のある業務も多く存在します。

最近では「働き方改革」の実現に向けて、人事制度の見直しなど、企業の根幹にかかわる戦略も担わなければいけません。

そういった時代的背景をうけて、元々、業務量が多いのに、さらに負担が増えています。日本の働き方における非合理を解消するには、まず人事労務担当者が本質的な戦略にリソースを割ける環境が必要です。そうした環境をつくるためにSmartHRが生まれました。

—昨年発表されていた「プラットフォーム化構想」は、人事労務担当者の課題解決をさらに後押しするための試みなのでしょうか?

芹澤さん:
そうですね。すでにSmartHRに入力されている従業員情報を活用すれば、よりユーザーにとって便利な仕組みを実現できると考えました。

例えば、現状、多くの企業がいくつかのバックオフィスサービスを併用していると思いますが、従業員が入社するたびにそれぞれのシステムに情報を登録していくのは結構手間だったりします。また、引越しや結婚といったライフイベントに応じて各システムの情報を更新していくのも、同様に大変です。SmartHR で登録・更新された従業員情報が、各システムに自動で反映される、そうした仕組みがあれば、より効率的に業務が行えるはずです。

また、幅広い業種の企業の方々にご利用いただくなかで、抱えるニーズの多様さにも気づかされました。従業員情報を活かした拡張機能(「Plusアプリ」)を充実させ、そういった幅広いニーズに応えたいと考えています。

—現在、どのようなチーム体制で構想に向けて取り組まれているのでしょうか?

芹澤さん:
今は「Plusアプリ」ごとに約4人程度の、少人数のチームで企画開発を進めています。各チームは、デザイナー、PM、フロントエンドエンジニア、バックエンドエンジニアで構成されています。

アプリごとに少人数チームを置くことで、素早く改善を進められるだけでなく、新たな技術の導入や大胆な施策を実行しやすくなります。軸となるサービスがありつつも、スタートアップ的に新たな実験が許される環境は、特にエンジニアやデザイナーの知的探究心を刺激しサービスを向上させる上で効果的です。

近しい理由から、各チームのメンバー異動も積極的に行っていて、同じチームに所属するのは長くとも1年程度。四半期ごとに入れ替えが起きるのも珍しくありません。

働き方改革を支援する分析レポート機能

—先程のお話にあった「Plusアプリ」の構想の一環で、現在とある機能を開発されているそうですが、村中さん、吉成さんの所属するチームが手がける「Plusアプリ」について教えてください。

村中さん:
SmartHRの人事データベースの情報をもとに従業員や組織の統計値を集計・可視化できる「ラクラク分析レポート」を開発しています。従業員の男女比や店舗別の人員数、入退社の数など、従業員や組織の状態を、簡単に可視化することができます。

SmartHRに集まり、蓄まるデータを人事労務の領域を超えてもっと活用したいという声をユーザー様からいただき、開発にいたりました。

直感的な操作性により、データ分析に精通していなくても、操作に迷うことなくデータを集計・可視化できます。

—すでにクローズドベータ版のテストを行なったと伺いました。反応はいかがですか?

村中さん:
一般的な分析ツールとは異なり、人事に特化したグラフがプリセットで組み込まれているので、サービスの利用開始後すぐに可視化されたリアルな指標を見ることができます。特にその機能についてポジティブな反応をいただいていますね。

ただ、使いやすさの面で新たな課題も見えてきました。例えば、人事労務担当者には「ダッシュボード」や「ウィジェット」などの単語に馴染みのない人もいらっしゃいます。あえてその単語を使う必要がなければ別の言葉に置き換えたり、単語を知らなくても意識せず使えるようにカイゼンを進めていました。

ビジネスサイドとプロダクトサイドの密な連携

—「ラクラク分析レポート」の開発にあたり、チームメンバーのお二人はどのような役割を担っているのでしょうか?

村中さん:
PMとして、マーケティング戦略を担うPMM(プロダクトマーケティングマネージャー=「何が売れるか」を考え、「それをどう売るか」に責任を持つ人)と一緒に、どのようなプロダクトが必要かを議論し、要件定義や仕様策定を行っています。PMMと「こういうものを作ろう」と話し合い、アイデアが固まってきた段階から、デザイナーやエンジニアに相談し、内容を詰めていきます。

吉成さん:
今は主にRailsでAPIの開発を担当しています。UIに合わせてデータをどう返すか、特定の処理をフロントエンドとバックエンドどちらで行うかなど、同じチームのもう一人のエンジニアやデザイナーと議論しながら進めています。村中が説明した通り、仕様策定後、比較的早い段階からPMやデザイナーと意見を交わしていますね。

—チームの配属はどのように決まりますか?

吉成さん:
このチームに所属するまでは比較的大きなプロジェクトに所属していたのですが、その際にフロントエンド側の実装に反省点が多く残りました。「Plusアプリ」は各プロジェクトごとに技術選定を行うのですが、比較的新しい技術を採用する予定だったので、フロンエンドの技術力を向上させたいと思い、自分から志願しました。

—ビジネスサイドとプロダクトサイドでどのように連携を図っているのでしょうか?

村中さん:
スクラムを回していて、リファインメントから振り返りまでを1週間単位で行います。そこにチームメンバーが集まるので、PMMが売上進捗や顧客からの要望など、共有してくれています。

100人規模を超えても色褪せないバリューへの共感

—お二人はどのようなキャリアを経て、SmartHRに入社したのでしょうか?

吉成さん:
前職はナビゲーションシステムを扱う企業で、店舗案内のパッケージ製品などを開発していました。SmartHRは、正式ローンチが発表されたTechCrunchTokyoの会場で知り、プロダクトに惹かれたんです。すぐ会場で声をかけジョインしました。

村中さん:
新卒ではスマホゲームの企業に入社し、エンジニアとして働いていました。私がそのゲームのヘビーユーザーだったこともあり、顧客の気持ちをリアルに考えることが多く徐々にPM的な役割も担うようになりました。2社目の企業にはPMとして入社しています。SmartHRは、社内の価値観を大切する姿勢や透明性ある文化に共感し、入社しました。

—透明性に惹かれたのはなぜなのでしょう?

村中さん:
将来、地元に帰って会社を興そうと考えているので、透明性のある組織形成は興味深いですし、体験してみたいと感じていました。また組織がオープンであることによって、各職種のノウハウを知ることができます。人生の時間は有限である分、一人の人間が経験できる職種は限られているので、自身で体験せずとも、他職種や他部署のメンバーがどのような仕事をしているのかを把握できるのは、自身の知見になると感じています。

吉成さん:
たしかに他職種の意思決定の過程を把握できるのは良いですよね。私の場合は情報過多になってしまうと集中できなくなるので要点を絞って情報にはアプローチするようにしているのですが、情報がオープンだと、他職種への質問ハードルが低くなるメリットもあります。例えば、開発背景がわからない場合は、経営陣やビジネスサイドに質問がしやすいので、納得感を持って開発することができます。そういったコミュニケーションがとりやすいので、「この内容だと売れないのでは?」とか「何で必要なの?」といった違和感が生じにくいです。

仮に違和感を持ったとしても、経営陣に質問や意見するのも歓迎される文化なので、もやもやを抱えたまま開発する必要がありません。

—二人ともバリューへの強い共感があったんですね。入社してみても印象は変わりませんでしたか?

村中さん:
変わりませんね。バリューに共感しているだけでなく、日頃の業務のなかでもバリューにもとづき、自律的に意思決定できています。そこが組織としてブレていないのは、自社ながらすごいなと感じます。

芹澤さん:
バリューへの共感は、創業者であり現在も代表を務める宮田が当初から重視していましたね。組織運営には初期から注力しているので、バリューの明確化と浸透にはこだわっています。今ではバリューが人事評価に含まれているので、共感していない人は評価が得づらいと思います。Slackにもバリューのemojiがあって、割と頻繁に送り合ってますね。

—6つのバリューのなかで特に共感しているものはありますか?

村中さん:
「早いほうがカッコイイ」ですね。emojiとしても使い勝手が良いので、ミーティングで挙がった改善点がすぐ直っているときとか、よく送っています。

吉成さん:
それ以外だと「最善のプラン C を見つける」が僕は好きですね。ユーザーからは頻繁に要望が挙がってくるのですが、ただ言われた通りに直すのではなくて、「表出した要望の奥にある、本質的な課題を解決できるかを考える」姿勢の人が多いと感じます。だからこそ、自然とエンジニアからも、ビジネスサイドに積極的に提案する文化が形成されているのかなと思います。

主体性ある“個”がチームワークで勝ちにいく

—エンジニアであっても顧客の抱える課題を解決する姿勢が求められるのですね。

芹澤さん:
モノづくりをする人間としてのエゴに引っ張られすぎず、顧客の抱える課題解決に尽力する姿勢が求められます。在籍するエンジニアも、自身の技術力を通して社会をよくしていきたいという気持ちの強い人が集まっています。

会議でも普通にT2D3などビジネス用語が飛び交い、プロダクトサイドとビジネスサイドが対等に議論しています。

—「顧客の課題解決にこだわる」以外に、どのような人がSmartHRに向いていると感じますか?

芹澤さん:
他人のチャレンジを支援できる人。突出した人が引っ張るのではなく、お互いの持ち味を補完しあってプロダクト開発を進める傾向が強いです。チームワークでより優れたプロダクトを生み出そうという意思のある人に向いていると思います。

また、技術選定やチームビルドも基本的にはボトムアップで決定しています。日頃の業務においても一人ひとりの裁量は大きいですし、代表の宮田を筆頭に、権限委譲を進めている。一定の規模を超えていても、透明性や一定の裁量が担保できている良い環境だなと感じています。

自ら課題を見つけ解決する主体性を持ちながらも、チームで複雑な課題解決に挑みたい人と一緒に働けたら嬉しいですね。

ー本日はありがとうございました!