ブロックチェーン技術で未来の電子書籍プラットフォームを作るーゼロから生み出すメディアドゥの開発プロジェクトとは

国内最大手の電子書籍取次として事業を展開する株式会社メディアドゥ。現在、社内ではブロックチェーンの技術を活用した新たなプラットフォームの開発が進められています。

今回、このプロジェクトを担当するIPマーケティング企画室 シニアマネージャーの佐藤美佳さんと、技術本部フェローを務める沓名雅司さんの2名にインタビュー。プロジェクトの構想やエンジニア目線での面白さ、そして求めるエンジニア像などについて、お話を伺いました。

■プロフィール

(写真左)
技術本部 フェロー
沓名雅司

2018年入社。SIerでの開発、PM経験を経て前職ではERPパッケージ開発でのR&D、基盤技術開発チームのマネジメントを経験。現職ではブロックチェーン技術を中心にリードエンジニアとしてプロジェクトを牽引。

(写真右)
IPマーケティング企画室 ビジネスディベロップメント シニアマネージャー
佐藤 美佳

2018年入社。ポータルサイトを運営するIT企業でサービス企画、ビジネス開発の経験を経て、グループ会社3社の設立に携わり、各社の取締役として経営を担う。現職では、B2Cサービス、及びブロックチェーンを活用した事業のビジネス担当として、プロジェクトを推進。

ブロックチェーンを活用し、世界流通や海賊版対策を目指す

ーー開発中のブロックチェーンを活用したプラットフォームに関して、お話を伺っていきたいと思います。まずは、このプロジェクトの概要について教えていただけますか?

佐藤:
もともとメディアドゥの事業の主軸となっているのは、出版社様と書店さんを繋ぐ懸け橋となる取次事業で、それぞれの課題をヒアリングしながら解決していく役割を担っています。そうした事業の中で期待されていることを、ブロックチェーン技術の活用によって実現していけるのではないかと考えています。

中でも、業界の大きな課題となっているのが、世界流通と海賊版対策の2つ。メディアドゥでは、以前から中央サーバーモデルでこれらを解決するシステム構築を進めていました。その一方で、気になる技術として注視してきたブロックチェーンの技術が、やっと実用レベルに上がってきたんですね。

そこで、構築を進めてきたシステムと比較したところ、使い勝手やコスト、サステイナビリティなどの観点から、ブロックチェーンの方がより優れていると。そうした判断から、今まで組んでいたシステムを捨て、ブロックチェーンを活用していくことになりました。

世界流通においては、日本のコンテンツを海外に出す際に、通貨やシステムなどの面で課題があります。そして、世界流通に取り組もうとすると、ファイルが外部に移転することで海賊版の流出に繋がってしまう懸念がある。なので、いかにコントロールしながら世界の人々にリーチしていくか、というのが我々の大きなミッションになっています。

ただ、それをいきなり一足飛びに実現することはできないので、出版社さんや書店さんに短期的なメリットも提供できる形にブレイクダウンしながら、段階を踏みつつ実現に向かっている最中です。

ーーブロックチェーン技術のどういったところが、世界流通や海賊版対策に適しているのでしょうか?

佐藤:
大きくは2つありまして、1つはトレーサビリティですね。履歴をずっと刻んでいけることがブロックチェーンの特徴なので、流通の流れを追うことができる。そのため、不正な動きを検知することができます。

もう1つは、もともとブロックチェーンの技術が使われてきた、暗号通貨との親和性の高さ。特にアフターコロナの世界で、リアルなお金に触れる機会が減る考え方になってくるのではと思っていて。使い方に検討の余地はあるのですが、そういう点も含めて、ブロックチェーンを選択しています。

沓名:
あともう1つ、ユーザー保護の観点においても、データの改ざん困難性というブロックチェーンの性質を上手く使っていきたいと思っています。

ブロックチェーンは、データの改ざんが不可能とまでは言いませんが、相当困難な仕組みになっているため、我々もデータを簡単に書き換えることはできません。そうして保証されたデータの信頼性の中で、ユーザーの地位を高めていくところにも寄与できればと考えています。

ーーユーザー保護というのは、具体的にどのようなことを指しているのでしょうか?

佐藤:
リアルな物を買った時、消費者は所有権を持ちます。ですが、電子書籍を購入した場合に得るのは、基本的に閲覧権や利用権であって、所有権を与えられているわけではありません。つまり、もしも使っていたサービスがなくなってしまったら、閲覧権や利用権は消滅してしまうということなんです。

現状、ユーザーが商品を買ったことを証明できるのはサービス本体のみですが、ブロックチェーンを活用することで、それを保証することができるようになります。特に我々は今回コンソーシアム型の構築をしようとしていまして、1社だけでなく分散して「この人はこれを買った」という事実がわかる状態になるんですね。

その結果、ユーザーがその商品を買ったことを証明でき、ずっと使い続けることができるという環境を提供することができる。これが、ユーザー保護に繋がると考えています。

業界内で信頼を積み重ねてきたメディアドゥだからこそ

ーーユーザー側のメリットの他に、出版社や書店など企業側のメリットについても教えてください。

佐藤:
出版社さんにとって、紙の書籍の場合は出荷した後、どんなお客さまの手元に渡ったのかがほとんどわかりません。昔ながらのアンケートハガキであるとか、今ならTwitterのエゴサーチなどで、ある程度はわかるかもしれませんが、なかなかユーザーが見えないという課題がありました。

これがデジタルになると、ユーザーの顔を直接見ることはできないにしても、ユーザーのさまざまなデータを我々のシステムを通じて可視化することができます。例えば、そのユーザーが作品をどれくらい初期から読んでくれているのか、読み始めたきっかけは何なのか、どれくらいファンなのか、といった形で。

そういう今までにはなかったユーザーのデータを見ることによって、ものづくりの仕方やマーケティングの仕方も変わってくるでしょうから、出版社さんにとってはそれが最も大きなメリットではないかと思います。

また、先ほどのユーザー保護の話に繋がるのですが、電子書籍を買ったことがないお客さまにも、「電子書籍は手元に実物がないから所有感がなかったけど、ずっと閲覧できるなら買ってみようかな」と思っていただける可能性があります。

書店さんに対しては、こうしてユーザーが電子書籍を購入することに対して感じるハードルを、業界全体で下げていくという安心感を提供できると考えています。

ーー出版社や書店など、業界全体を巻き込みながら進めていくプロジェクトだと思います。それにあたって、御社の強みはどういったところにありますか?

佐藤:
長い歴史の中で流通の仕組みとノウハウを作り上げてきた業界ですから、新しい取り組みを進めていくということに、抵抗感を持たれる方もいると思うんです。でも、そういった方々も真剣にお話しを聞いてくださるというのが、メディアドゥならではの強みだと感じています。
今まで積み上げてきた信頼から、「メディアドゥは自分たちの課題を解決してくれる会社だ」という風に見ていただけているのではないかと思っています。

出版社2000社以上、150店以上の書店と取引

ゼロからイチを生み出すプロジェクトの中で、スキルを活かす

ーーここからは、技術的な話題についても深堀りしてお伺いしたいと思います。プロジェクトとしては、実証実験を終えて商用実現へ向けた段階にあるとのことですが、現在のフェーズや今後の展開について教えてください。

佐藤:
現在、基盤の部分は80%くらい開発が終わっていまして、年内にはユーザーの目に触れる形でローンチするロードマップで進めています。

ーー開発言語を含め、どういった技術を使われているのでしょうか?

沓名:
基盤となるブロックチェーンの仕組みとしては、アマゾン ウェブ サービス(AWS)が提供するAmazon Managed Blockchainを主体として使っています。また、ブロックチェーンと連携し、付加価値を提供するサービス部分については主にサーバレスの技術を中心に採用しています。
ベーシックなところでいうと、コンテナもかなり使っていますので、Dockerの仕組みを使ったりとか。また、言語でいえばGo言語が中心ですね。フロント周りに関してはNode.js も使っています。

ーー現在の開発チームの体制について教えてください。

沓名:
開発チームは今およそ10名で、その半分弱が正社員、半分以上がパートナーで構成されています。先行技術を使いながらサービスを組み立てていますので、有識者の方々に積極的に参加いただくという形をとっています。

ーーブロックチェーン技術の中でもコンソーシアム型を導入されたとのことですが、いくつかの型がある中でそれを選択された背景をお伺いしてもよろしいでしょうか。

沓名:
パブリック型と比較した時が最もシンプルかと思うのですが、パブリック型は個人同士での信頼性に関しては当然向いていて、そうした領域に上手く適応できるサービスになります。

ただ、我々はプラットフォーマーで、関係各社の方々の権利をきちんと守りつつビジネスを拡大することが命題です。そのため、ビジネスのスキームも合わせて適切なサービスを展開するという観点で考えると、適用のハードルが高いというのが我々のPoCで得た結論です。

コンソーシアム型であれば、それぞれのステークホルダーの合議が果たされたものだけがサービスとして稼働しますので、きちんとビジネス上のコンセンサスを取りながらサービスとして構成できます。こうした強みから、最終的に選んだのがコンソーシアム型です。

ーーエンジニアとして御社に入社した場合、活かせるスキルや面白さを感じる部分はどのような点になるでしょうか?

沓名:
テクノロジーを中心としたスキルは、かなり活かしていただけると思っています。我々が進めているのはゼロからイチを生み出していくプロジェクトなので、その中でとてもフレキシブルに、スピード感を持って技術選定や調査をする流れの中で、調査力も活かしていただけるかなと。

あとは、当然ながらサービス全体のアーキテクトですね。すでに我々は、配信サービスとして国内のマーケットのかなりのシェアを捌けるだけのプラットフォームを持っていますので、その上に乗せるサービスとなると、それなりに付加価値を与えるサービスでなければなりません。そういった中でブロックチェーンを使いながら、いかに上手くボリュームを捌ける構成が作れるかといったところも1つの挑戦ポイントかなと思っています。

また、ビジネスサイドのチームが、ビジネス的な課題とそれに対してのシナリオの組み立てをしっかりと進めてくれているので、我々はそれに対してどうやって技術で応えていくかに集中できる環境が整っています。

ビジネスサイドからの情報や課題もタイムリーに連携

ーービジネスサイドの方が中心となって、業界内のさまざまなステークホルダーとのやり取りが進められていると思います。ビジネスサイドとエンジニアサイドのメンバー間で、どのように連携を取られていますか。

佐藤:
外部とのやり取りについては、かなりタイムリーにそのままの内容を共有するようにしていますね。沓名以外のメンバーも含め、定例でも情報を共有しています。今はリモートワークに切り替わっているのですが、メンバーとは毎日コミュニケーションを取るようにしていて。なので、コミュニケーションを取る頻度は比較的多いと思います。

取引先とのミーティングにも、ある程度話が進んできたタイミングから、沓名にも参加してもらったりしています。ビジネスサイドとエンジニアサイドで、セクショナリズムにならないように情報や課題をタイムリーに相談し合うというのは、お互いに意識している部分ですね。

ーーこのプロジェクトは、社長直下で進められていると伺いました。やはり社内からの期待度も高いプロジェクトなのでしょうか。

佐藤:
そうですね。確かに期待度の高いプロジェクトではあるのですが、今はまだ仕込み中の段階なので、数字的な貢献ができているわけではありません。そういう面では、多少なりとも不安を伴うものですが、「新しいことができる」とか「次世代のものを作る」というところにモチベーションを感じられる方にとっては、とても面白いプロジェクトだと思います。

沓名:
我々は「次世代のビジネスを提供していこう」というモチベーションで技術選定も行っていますので、チャレンジしたい方にとっては、すごく良い環境だと思いますね。

それぞれがメディアドゥへの転職を選んだ理由

ーーお二人の簡単なご経歴や、メディアドゥへ転職された背景についてお伺いしたいと思います。まずは、沓名さんからお願いします。

沓名:
私はSIerでエンジニアとしてキャリアをスタートして、直近では大手ERPパッケージベンダーでR&D的な仕事をしていました。40歳手前になって、そろそろもう一度新しいチャレンジをしたいなと考えていたタイミングで、メディアドゥのことを知ったんです。

やはり規模が国内で圧倒的な会社なので、チャレンジできることが多いんじゃないかと。それに、社長が挑戦することに関してすごく熱意を持った方なので、挑戦すること自体を積極的に応援してくれる会社だろうと期待していました。実際に、今チャレンジングな仕事を与えてもらっているので、とても楽しみながら仕事をしています。

ーー実際に転職された後、期待していた部分についてはどのように感じられていますか?

沓名:
入社前の期待よりも、高い満足度で仕事をさせてもらっていますね。ブロックチェーンを使ったPoCの案件はさまざまありますが、メディアドゥでは社会実装をしていく前提でプロジェクトが進められていますので、想定よりも挑戦的なものに取り組ませていただいている状況です。

ーー今回のプロジェクトに携わっている中で、沓名さん自身としての思いがあれば教えてください。

沓名:
ブロックチェーンというキーワードが表に出ていますが、あくまでブロックチェーンは手段の1つに過ぎません。我々としては、ブロックチェーンをしっかりとマーケットの中に組み込むことができれば、業界の全体的なエコシステムにより貢献できるはずだという前提で進めています。それを1日でも早く提供できるように、と考えています。

ーー続いて、佐藤さんの簡単なご経歴や、メディアドゥに転職をされた経緯を教えていただけますか?

佐藤:
私は新卒でEC系のネットベンチャーに入って、その後ヤフーに入社して15年ほどデジタルコンテンツの担当をしていました。一番長く携わったのは、占いやコミック・電子書籍で、そうしたサービスのプロジェクトマネージャーをやらせていただいていたことが、今に繋がっています。

自分を成長させてもらったこの業界に対して、もう少し何かできることがあればと思って、その会社と一緒にメディアドゥに転職してきたというのが経緯になります。

ーー実際に転職されてから、メディアドゥだからこそできることなど、実感される部分はありますか?

佐藤:
まさに現在のプロジェクトでは、出版社さんなどからもさまざまなご意見をいただきながら進めていて、業界の内側にいるメンバーとして「一緒に業界をより良くしていこう」という一体感のようなものを感じます。

それは、これまで細やかに業界のことを考えてきた背景があるからこそなので、こうした部分はやはりメディアドゥならではだと思いますね。

ーー今回のプロジェクトに携わっている中で、佐藤さん自身としての思いがあれば教えてください。

佐藤:
これは誰のための仕事かと考えた時に、やっぱりエンドユーザーやメンバーを含めて皆の笑顔が浮かぶのが理想で、このプロジェクトはその1つのきっかけにしたいと思っています。

特にブロックチェーンが描くのは、信頼や価値を表明できる世界だと思うので、正しい行いをする人が報われる世界を、ブロックチェーンを通じて実現できるんじゃないかと考えているんです。例えば、海賊版ではなく、オフィシャルな物を使ってくださるお客さまが報われる。そういう世界を、このサービスを通して構築していきたいと思っています。

ワークライフバランスを保ちながら挑戦できる環境

ーー働き方に関する話題もお聞きしたいと思います。新規事業のプロジェクトと聞くと、厳しい納期やハードワークをイメージされる方もいるかと思うのですが、実際の環境としてはいかがでしょうか?

沓名:
納期については、確かに決まったスケジュールに対して、アウトプットしていく責任を持っています。ただし、状況に合わせて調整していますので、作業量が突発的に膨らむようなケースはないようにコントロールしています。実際に私もほとんど残業していないですし、メンバーにも基本的に残業がないように進めてもらっています。

ーーワークライフバランスをより充実させたいというのが、沓名さんが転職されたきっかけの1つでもあったとお伺いしました。実際に転職されて、その点はどのように感じられていますか?

沓名:
この会社に入って、1日の仕事量をかなり調整できるようになったことは間違いないですね。プライベートの時間もきちんと確保しながら、チャレンジングなプロジェクトに参加できるという、とても良い環境だと感じています。

求めているのは、共にゼロから作り上げていく仲間

ーーそれでは最後に、お二人それぞれの目線から、どういったエンジニアを求めているか教えていただけますか?

沓名:
現在、募集しているのはテックリードのポジションになります。ゼロからソリューションを構築していくフェーズに参加したい方、よりご自身の力を発揮したいと考えている方が、非常にマッチするのではないかと考えています。

それから、このプロジェクトでは相当なボリュームを捌いていく必要があるので、スケーリング可能なアーキテクチャの設計や、その実現に寄与いただける方であれば、よりスキルを発揮していただきやすいと思います。

議論しながら組み上げていくフェーズですから、自分から積極的にアイデアを出していきたいという方にとっては楽しめる環境だと思います。そういったモチベーションの方に、ぜひ来ていただきたいですね。

佐藤:
ビジネスサイドからの目線としては、例えば少し難しい提案をした時に「これはできません」と返すのではなくて、どうすれば実現できるのかということを、さまざまな要素を踏まえながら一緒に議論していけるエンジニアの方を求めています。

「できない」という判断はリスクヘッジとして、必要なスキルの1つであるとは思うのですが、沓名の話にもあったように、我々はゼロからイチを作っていかなければなりません。ビジネス側やテック側など立場や役割はそれぞれですが、作りたい未来に向かって一緒に走っていける、熱量のある方に来ていただけることに期待しています。